日本とその他の国との、不動産取引の慣習の違い
目次:【日本の不動産慣習の異常?】
今回は日本とアメリカの不動産取引の違いについて記載していきます。
日本の不動産慣習の異常?
まず、日本人の不動産に関する認識が「異常」なのだということを
認識している方はほとんどいません。
アメリカだけではなく、イギリスやフランス、ドイツなどの
ヨーロッパ先進国は日本の不動産事情とは異なるようです。
おそらく世界標準で見ると、
日本の不動産取引の商慣習や市場の構造は少し異常なようです。
特筆すべきは、不動産取引を依頼する先、
そして消費者が住宅を購入する時の新築・中古志向です。
対アメリカを中心に見ていきます。
「会社」で選ぶ日本、と「担当者」で選ぶアメリカ
スポーツ界において、日本と海外との差はだんたんと縮まっている印象を受けます。
野球にしてもサッカーにしても、「個」の力が強くなってきている印象です。
それは不動産取引でも鮮明に出ており、
お客様が不動産取引を希望する時に依頼する先が異なります。
これは日本とアメリカの違いと言うこともできますが、
おそらくヨーロッパ先進国はどちらかといえばアメリカ型を採用しており、
日本の不動産取引が世界標準と異なるということが言えると思います。
当然そこには日本独自の歴史観・民族感が影響しているように思います。
ここからは、不動産取引において依頼する先を選ぶ時の日本とアメリカの違いについて解説します。
「会社」で選ぶ日本
日本で不動産を購入したい、
もしくは保有する不動産を売却したいと考えている人は、
まずは不動産会社に連絡を取る人がほとんどです。
グーグル・ヤフーの検索サイトにて、
インターネットにより、「不動産 売却 豊中」のように検索しますと、
まずスポンサー企業(サイトにお金を払い上位に載ってくる企業)、
次に大手不動産会社名が出てきます。
インターネットで検索して上位表示される不動産会社、
もしくは「三井」「三菱」「住友」などの財閥系企業=安心というイメージからか、
これらの企業に連絡を取る方もいます。
つまり、お客様が不動産会社を選ぶ基準は
不動産会社のブランドや知名度、会社歴の長さといった要素です。
「担当者」で選ぶアメリカ
一方で、アメリカの場合には不動産の「営業マン」を基準に選びます。
営業マンは「エージェント(代理人や仲介人という意味)」と呼ばれ、
各エージェントは不動産会社「ブローカー(会社・機関)」に所属しています。
・エージェント…代理人
・ブローカー…会社・機関
アメリカでは、エージェントはブローカーに所属していないと営業活動ができないので、
仕方なく会社に所属する営業マンという形となります。
サッカー選手でも、個人的にすごい能力を持っていたとしても、
どこかのチームに所属していなければ試合に出られませんし、
活躍もできません。
不動産ブローカー内では、それぞれの営業マンが個人事業主のように働いています。
ブローカーのホームページでは、エージェントの過去の実績や経験年数などが公開されていて、
アメリカ人はエージェントの経歴を見て、
所属するブローカーに連絡を取ります。
日本では、確かに最近の会社のホームページで、営業マン個人の紹介がありますが、
消費者の側から「この営業マンが良い!」といって不動産会社を選ぶことはまずありません。
そして、日本で不動産を選ぶ際のイメージですが、
①インターネットやチラシで気になる物件の発見
↓
②どこが扱っているかの会社を確認
↓
③問い合わせ
の流れになります。
しかしアメリカやヨーロッパでは
①物件を買おう
↓
②担当を探す
↓
③物件を紹介してもらう
という流れです。
エージェントが成約した案件はブローカーとエージェントで売上を分配します。
日本では、「依頼した不動産会社が財閥系企業で安心だ」と思っていても担当する営業マンが使えない、ということは珍しくありません。
しかし、アメリカではそのようなエージェントは早々にリストラ対象になります。
ここも日本の歴史的背景・雇用規制が関わってきます。
日本の会社では、一度雇用契約を結ぶと、今現在ではすぐリストラできません。
(しかし、日本の社会保険事情や少子高齢化の影響もあり、
使えない営業マンに給料を払うことができないようになっていくと思います)
また、アメリカのエージェントは成約実績が上がるほど、
報酬の取り分が増え、お客様の紹介によって新しいお客様を獲得し、
さらに売上を伸ばします。
そのため、エージェントの間では熾烈な競争が繰り広げられます。
このように日本では「不動産会社」を基準に選び、
アメリカでは会社よりも「エージェント(営業マン)」で選びます。
そして、このような違いが生じるのは
アメリカのブローカーとエージェントという制度が関係しています。
アメリカでは担当者=エージェント
上述のように日本とアメリカでは不動産会社と営業マンの関係性が異なります。
日本では、
営業マンは不動産会社に所属しており、固定給(+歩合)をもらっています。
もちろん、業績連動給やボーナスという形で実績が反映されますが、基本は固定給です。
一方でアメリカでは、
不動産会社や宅地建物取引業者を「ブローカー」、
ブローカーと契約する営業マンを「エージェント」として、
エージェントは会社とは別個の個人事業主という位置づけです。
ブローカーは不動産会社の事務所を構えていますが、
そこに所属するエージェントは州政府から不動産業の許可を得たプロフェッショナルです。
仲介手数料の違い
アメリカの場合、仲介手数料は「売主様負担」となります。
物件価格の6%程度で、売主様の不動産エージェントに6%の仲介手数料を支払い、
買主様の負担はないケースが一般的です。
買主様担当の不動産エージェントは売主様側のエージェントから報酬をいただきます。
他にも、カナダ・フィリピン・オーストラリア・マレーシアあたりは売主様側が
仲介手数料を支払う商習慣になっています。
アメリカ三大資格
なお、アメリカ社会において、「三大資格」といいますと、
医師・弁護士・ブローカーライセンスです。
上記で記載しています「ブローカー」の資格は、
アメリカにおいては大変地位の高い資格です。
18才以上かつ四大卒(学部不問)という学歴要件もあります。
「エージェント」であるセールスパーソン資格も
そこそこレベルの高い資格で、州政府より許可を得ないとなれません。
日本の宅地建物取引士資格の難易度も、今一度見直してみては?と思います。
エージェントはブローカーから固定給をもらっていません。
完全なるフルコミッションであり、
エージェントの成約した案件から生じる売上をブローカーとエージェントで分配します。
日本では不動産会社がお客様から報酬を受け取り、
そこから営業マンに固定給を支払いますが、
アメリカではエージェントが報酬を受け取り、
ブローカーが自分の取り分を受け取ります。
つまり、エージェントが受け取る報酬は
完全に個人の手腕に依存しています。
これは芸能事務所と所属タレント、
または野球球団と野球選手のような関係であり、
人気の高いエージェントはブローカーからスカウトされて、
より好条件で移籍します。
逆に実績の上がらないエージェントはリストラされるか分配の割合で
ブローカーに有利な契約を締結しないと残れません。
「新築の日本」と「中古のアメリカ」
アメリカでは、日本のように、簡単に建築物を建てることができません。
日本では不動産市場に流通している住宅の8割以上は新築物件です。
ですので、消費者の新築志向が強く、市場にも豊富に供給されています。
一方でアメリカ・ヨーロッパでは中古住宅が8割を占めています。
新築の供給数は少なく、消費者に新築志向があるわけでもありません。
そのため、富裕層の日本人がアメリカで新築住宅を探そうとすると物件の少なさから大変苦労をします。
日米の不動産取引を見てみると、
このように消費者の新築・中古志向が大きく異なることに気が付きます。
それでは、なぜこのような違いが生じるのでしょうか。
新築志向の強い日本
国土交通省が公表している「我が国の住宅ストックをめぐる状況について(補足資料)」によれば、
日本で流通している住宅の80%以上が新築住宅であり、
中古は14.7%に過ぎません。
日本では消費者の新築志向が強いと言われており、
一説では
アメリカは中古住宅の割合が9割、
イギリスも同様に9割、
フランスでは7割となっており、
2割に満たない日本はある意味で異常とも言えます。
これは地震大国日本ならではの状況かと思います。
また、建築基準法上の兼ね合いもあるかと思います。
銀行の住宅ローンも、「旧耐震の物件には融資できません」という銀行もあります。
古い=危ないという国の施策・報道機関の伝え方にも問題ありかと思います。
世界的に見ても、日本の地震数は世界4位とのことです。
日本では戦争中の空襲の影響で住宅が極度に不足し、
「質より量」で住宅が建設された時代があります。
住宅の品質が劣悪で、20年経過すれば無価値になることから、
(この解釈もそもそも疑問ですが)
消費者の間で「買うなら新築」というマインドが生まれました。
しかし、不動産業界で勤務する人は、意外と中古を買う方が多いです。
バブル経済の影響
また、日本独特の経済状況や規制環境も影響しています。
日本において、「バブル経済」という時代がありました。
プラザ合意の円高不況以来、
内需の拡大策として
住宅ローンの融資額が大きく増加します。
そして、バブル崩壊後の不景気には、
金利を下げ、お金の流通量を増やします。
金融緩和の中で住宅ローンの金利が下がり、
新築住宅でも購入できる環境が整います。
日本は都市部であっても、
無造作に住宅を建築できることから、
不動産業者はあちこちに新築住宅を建築し、
手当り次第に売るという状況を呈していました。
このような日本独特の事情によって、
中古住宅が住宅流通数の2割以下という欧米先進国と比べると異常な低さになっているのです。
アメリカ人の中古住宅志向:住宅の購入=投資
それでは、なぜアメリカは住宅に関して新築ではなく、中古が主流なのでしょうか。
一番のヒントは日本人にとって住宅とは「住む場所」でしかないが、
アメリカ人にとっては「住む場所+投資である」という点です。
アメリカでは「不動産価格は上がり続けるもの」であり、
日本では「不動産価格は下がり続けるもの」と考えられています。
バブル期には日本でも「土地神話」なるものがありました。
「土地は買って転売すれば高く売れる」というものです。
アメリカでは物価が上がり続けていますので、
相対的に「不動産は上がるもの」ですが、
バブル期の日本は絶対的に不動産は上がる!とほとんどの人が思い、
銀行もどんどん不動産には融資しました。
しかしそれはあくまで神話でした。
したがって、アメリカ人は住む場所として不動産を購入し、
引っ越しの時には値上がりした不動産を売却し、利益も獲得していくのです。
日本人は、「このマンションは●年後、上がっているかな?」という他力本願な感覚ですが、
アメリカ人は「この物件を加工して(DIY)、付加価値をつけて売ろう」という感覚です。
新築物件の建設規制
アメリカでは中古の住宅は住む場所としてだけではなく、
投資対象として購入されていることを解説しました。
なぜアメリカ人の8割以上が中古住宅に住んでいるのでしょうか。
答えは、新築住宅がほとんど供給されないからです。
アメリカの国土は日本の約25倍です。
しかしながら、新築の供給量は日本に比べ、圧倒的に少ないです。
アメリカでは連邦政府ではなく、
州政府のレベルで建物の建設について厳格な要件が規定されています。
アメリカに住んだ人なら知っているかもしれませんが、
アメリカには「ゾーニング」という規制があります。
これは、ある地区に建設できる不動産を決める規制です。
さらに一定の面積のなかで、建設できる住宅の数も指定されています。
ゾーニングがあるということは、
日本のように無造作に新築物件がポンポン建設されることがありません。
コンビニも簡単には建てれません。
「住宅街のここにコンビニがあれば便利だから、ここに出店しよう」とはできません。
このように新築物件を建設できる地域が決まっているため、
供給数が少ないのですが、
たとえ新築物件を建設できる地域であっても建設許可に莫大な時間がかかります。
なかなか州の建築許可がおりません。
州単位の行政の許可を得るために時間がかかるので、
中古住宅の方が流通しやすいのです。
ゾーニング制度はアメリカならではですが、
新築の建設を制限する規制はどこの国にもあります。
例えば、ヨーロッパ諸国では歴史ある町並みを保存するために
新たに建設する住宅に強い規制がかかっており、
新築物件の供給が少なくなります。
フランスがテレビに映される場合、
エッフェル塔以外高い建物があまり無いイメージです。
このようにして見ると、
新築物件がポンポン建設され、
誰もが新築物件を購入したがる日本の状況は
世界的には異常だということがわかります。
根強いDIY文化
アメリカに住んだことがある人なら分かるかもしれませんが、
アメリカでは至るところにDIY用品を販売するホームセンターがあります。
日本でも「コーナンプロ」「ロイヤルホームセンター」等のお店が最近増えました。
しかしながら、日本人の感覚としては、
内装のリフォームを行う時にリフォーム業者に依頼して、
リフォーム業者が資材を木材点などから仕入れています。
しかし、アメリカではホームセンターで内装用の資材はなんでも手に入ります。
エアコンの取り付けや屋根、
壁の塗装、
ドアの設置
クロスの張替など
なんでも自分でやる環境が整っています。
アメリカのDIYの市場規模は約42兆円
日本は約4兆円
と日本の10倍を超えています。
このようにDIYが盛んな理由もまた「不動産購入=投資」という価値観によるものです。
アメリカ人は住宅を住む場所としてだけではなく、
将来的に売却して、儲けを出すことを考えています。
ボロボロの状態で売りに出すよりも
こまめにDIYをして、
付加価値を高めることで
資産価値の向上を狙っているのです。
数年後に売却しようと考えている場合には
ホームセンターでトレンドの色や部材を購入して、
おしゃれな内装にしてしまいます。
ですので、アメリカの本屋さんには、
DIYの書籍が大量に並んでいます。
また、YouTubeの再生回数も、
DIYの仕方の動画がよく回ります。
パパの休日
アメリカのパパは、
休みの日には家のDIYを日課にしているパパが多いです。
そうして、家を手放すときに購入時の価格よりも高く売ることができます。
このように購入してすぐや売却の前にDIYをして、
きれいにするので中古の物件でも抵抗がないのです。
まとめ
①日本では「不動産会社」を見て決めるが、
アメリカでは「エージェント(営業マン)」をみる
②日本では「新築住宅」が人気だが、
アメリカ人は「中古物件」を購入する
これらの違いは現地の規制・地理的要素・災害頻度によるところもありますが、
それ以上に消費者のマインドの違いが大きいといえます。
どちらのマインドが良いかは一概に言えませんが、
アメリカ式の取引方法には学ぶところも大いにあります。
最近では、不動産セミナーなどの影響で
日本でも不動産会社だけではなく、
営業マン個人に注目する動きがあります。
●北摂の不動産エージェント●
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弊社(株)KN不動産は豊中 不動産 売却・購入の仲介を中心に安心・安全な取引を心掛け、
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不動産に関するご相談は【(株)KN不動産】へお気軽にご相談ください。
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久賀田 康太/くがた こうた
株式会社KN不動産 代表取締役
関西大学 法学部卒
宅地建物取引士
某警備会社で勤務後
大手不動産仲介会社に転職。
居住用~収益、農地等
あらゆる取引を経験後、独立。
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