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積水ハウス地面師詐欺事件

歴史

目次:【積水ハウス地面師詐欺事件】

積水ハウス地面師詐欺事件


先日、アメリカの住宅メーカーを買収した積水ハウス㈱ですが、
過去には大変な事件がありました。
そこからあっという間に立ち直り、
売上を拡大しています。
その事件を記載していきます。

地面師とは?


地面師とは、不動産取引における詐欺師のことです。
土地の所有者になりすまし売却を持ちかけて、お金をだまし取ります。
詐欺だとわかりにくいのは、土地の所有者だけでなく、
司法書士や不動産業者など専門家を装う人物も含めたグループだからです。
一人で詐欺をするのでなく、
グループになり犯行に着手しますので、
とても巧妙に計画してきます。

積水ハウス地面師詐欺事件は、
2017年6月1日に、
積水ハウスが地面師グループに土地の購入代金として
55億5千万円を騙し取られた事件です。

老舗旅館「海喜館」


事件の舞台となった、「海喜館」(東京都品川区)。
時価100億円すると言われていた土地でした。
事件の舞台は、東京都品川区西五反田2-22-6、
山手線五反田駅から徒歩3分の立地にある旅館「海喜館(うみきかん)」です。
関東の不動産業界ではかねてより注目の案件でした。
積水ハウス㈱は所有者を名乗る女と、
約600坪の旅館敷地を70億円で購入する売買契約を締結。
6月1日に売買の窓口となった「IKUTA HOLDINGS株式会社」(千代田区永田町)に
所有権移転の仮登記、
さらに同日、積水ハウスに移転請求権の仮登記がなされ、
同日、売買代金70億円のうち63億円を支払い、直ちに所有権移転登記を申請した。
しかし、売買は成立しなかった。
6月24日、「相続」を原因に都内大田区の2人の男性(所有者の実弟とされる)が所有権を移転。
7月4日に登記。所有者はすでに亡くなっていました。

登記所が積水ハウスの売買予約に基づく仮登記を認めず、
2人の実弟とされる男に所有権の移転を認めました。
この時点で、63億円を支払った積水ハウスは、所有者の成りすまし女とそのグループに騙されたことになる。
積水ハウスが騙されたことを認めたのは、8月2日でした。
なお、同時期に旭化成グループが正式な所有者から土地を取得、
現在高層マンション「アトラスタワー五反田」第5期分譲受付中です。(2024年1月20日現在)
旭化成の担当者は、「この土地は100億円で取得しても利益が出る」と言います。
60億は比較的安かったのですね。

経緯


旅館「海喜館」の所有者の元には、
リーマンショック前あたりからデベロッパーなどの不動産会社の社員が寄っていたが、
所有者は断固としてその土地の売却を拒んでおり、
客を装って接客時に旅館売却を迫る不動産関係者に嫌気が差して常連以外を宿泊させなくなったそうです。
「海喜館」は2015年3月に廃業となったが、
所有者はなおも売却せずに旅館に住み続けました。

この土地に目を付けた地面師グループは「海喜館」の土地を狙いました。
詐欺をする場合、プロよりプロっぽくなりすますと言われますので、注意が必要です。
2017年4月3日、
地面師グループは転売目的で海喜館の土地を購入しようとする中間買主を見つけ、
この中間買主から申込証拠金として2000万円を受け取りました。
4月4日、
マンション事業を行う事業部の営業次長に、
元旅館「海喜館」の土地を売却するという話が持ち込まれました。
土地所有者はパスポートと印鑑証明で本人確認ができる状況でした。
4月13日、
地面師グループと中間買主、積水ハウスの次長・課長は条件面を打ち合わせました。
その際、地面師は「所有者はマンション購入資金として3億円の調達を急いでいる。
申込証拠金だけだと翻意するかもしれない。他にも購入希望者は沢山いるので急いだ方が良い」と
積水ハウス側に対して取引を急かしたそうです。
このような状況下でしたので、
この案件に関しては従来の稟議段取りとは異なっていたそうです。
積水ハウスは特別な稟議決裁を行った後、
4月24日に売買契約を締結し、
手付金14億円を支払いました。
この契約は海喜館を一旦中間買主が買取り、
それを積水ハウスが買うという契約で、
中間業者の買取価額60億円、積水ハウスの買取価額は70億円でした。
この時点で中間業者は税引き後数億円の利益を得る計算です。
この後、所有権移転の仮登記が完了する。
6月1日に残金の支払いを行なわれ、
建物取り壊し後に支払う留保金7億円を除いた残金49億円が支払われた。

6月6日、
法務局から不動産の本登記「却下」の連絡が入りました。
ここで偽の所有者から土地を購入していたことが判明したようです。
6月9日、
積水ハウスは新宿警察署に被害届を提出するが受理されず、
9月15日
警察庁で刑事告訴が受理されました。
この間、6月24日に海喜館の本来の所有者が亡くなったらしく「相続」を原因に都内大田区の2人の男性が所有権を移転し、
7月4日に登記されました。

その後、旭化成不動産レジデンスが真正の所有者から土地を取得。
2021年4月より、213邸30階建・高さ105mの超高層マンション・アトラスタワー五反田が建設されました。

詐欺が成功した要因


ここまで大きい金額の案件になりますと、
不動産会社が地面師対策として実施する「知人による確認」を実施しなかったようです。
取引をしようとする「所有者」の写真を
近隣住民や知人に見せる方法で行われる本人確認手法の一種です。
真の所有者は当旅館で生まれ育っているため、
近隣で知らないものはないほどであったのに、これを怠りました。
土地購入の承認を得るための稟議書承認の際、
4名(役員クラス)の回議者が飛び越され、
予め現地視察をしていた社長が先に承認しました。
回議者全員が押印したのは手付金支払後だったとも報道されました。
当時不動産部長だったK氏は、「この取引はおかしい」と言い続けたが、
阿部俊則社長や東京マンション事業本部長の常務らは、
取引相手のネガティブ情報を伏せ、最終的にK氏に捺印させた。
K氏の証言では、
取引前の2017年5月10日に積水ハウス本社法務部宛に送られてきた内容証明郵便について、
怪文書の類とみなし不動産部には伝えられなかったそうです。
積水ハウスが手付金支払いと仮登記を行った後に、真の所有者から「売買契約はしていない、仮登記は無効である」などと記載された内容証明郵便4通が届けられ、
さらにその一通には印鑑登録カードの番号が記載されていたにもかかわらず、
積水ハウスはこれらを土地売買を知った者による妨害行為と思いこみ、
偽の所有者から内容証明郵便を送っていない旨を記載した確約書を入手する程度の対応しか取らなかった。
当時本当の所有者が長期入院中で面会謝絶となっており
「なぜ登記を確認し、内容証明書類を作成できたのか」と不審視される点がありましたが、
積水ハウス側が真正の通知書と信じられなかった要因とされました。
妨害行為と思いこんだ積水ハウス側はこれに対応するため、
残代金の決済日を約2か月早めて6月1日にした。残代金支払日の6月1日には、
真の所有者の通報により現地に来た警察官は、
積水ハウス社員に対して警察署への任意同行を求めた。
残金支払手続中のことで、この連絡を受けた積水ハウス担当者は妨害行為だと思い、
そのまま支払手続を完了した。
地面師は、これ以前に複数の不動産会社に声を掛けていたが、
所有者の本人確認ができないという理由で断られていた。
積水ハウスは、都心でのマンション用地買収は得意分野ではなかったようですが、
マンション事業部はこの案件を是非とも進めたい一心で、
稟議承認の前に社長に現地を見せ、その後、社長による飛び越し承認があったようです。
社内では「社長案件」と呼ばれてました。
マンション建設用地を確保したいという社内の勢いが強く、その承認体制が機能しなかったといわれています。

事件発覚前から指摘されていた不審点


最終打ち合わせの際にパスポートの表記が正式なものと異なる部分があったという指摘があり、
さらに地面師が「取りに行った際に仲間と所有者が喧嘩になって揉め事が起こるといけないので」と
土地の権利書なしで本人確認情報で登記申請をしようと申し出るなどしていた。
他にも偽の所有者は、自分の誕生日を忘れる、自分の干支を間違えるなどしていました。
偽の所有者に現住所の記載を求めた際、番地が書き間違えられていたようです。
支払いには銀行振込ではなく、
換金が容易で引き出しなどの記録が残らない預金小切手が決済方法として利用されました。
取引相手が中間業者の会社で、途中で前株から後株になり、
代表者も別のペーパーカンパニーとなっていました。

事件後の内紛


積水ハウスが入居する梅田スカイビル
同社は2008年4月以来、「和田会長-阿部社長」の体制を続けてきました。
この事件により、事態は急変。
和田と阿部が対立し、和田が解任に追い込まれるなど「お家騒動」に発展。
2018年1月24日の取締役会では、
和田が「詐欺事件について責任を明確化する」として、
阿部の社長解任動議を出したものの否決。
その後、阿部が「新しいガバナンス体制を構築する」として、
和田を解任する動議を出したところ、和田が辞任を表明。
事実上の解任とみられた。
和田は阿部の責任を追及したはずが、返り討ちにあったといわれる。
「内紛劇」が表面化して以降、同社株は下落が続いた。
2018年1月期決算を発表した3月8日、同社は企業統治の強化策を公表。
代表取締役の70歳定年制、女性社外役員の登用による役員構成の多様化を打ち出した。
阿部は6項目の改善策について
「全社的に取締役会の大改革に不退転の決意で取り組む」ことを強調しました。
4月26日付の役員人事では社外取締役、社外監査役を各1人増員し、それぞれ女性を起用。
2020年4月23日、阿部俊則会長ら取締役選任議案が可決され、
和田前会長らによる経営陣刷新の株主提案が否決されました。
2021年3月4日、同社は会長を務めていた阿部俊則が退社すると発表。
退任後に積水ハウスの特別顧問に就き、会長職は空席となりました。

まとめ


弊社でもいろいろな不動産会社・個人様と取引しますが、
ここまで大きな金額の案件となりますと、
急いで取引すること自体に違和感を感じました。
金額次第で案件の力の入りようが変わることもおかしいですが、
積水ハウス㈱のような大きい会社では、
売上至上主義、株価の動向が最優先にされると思いますので、
なかなか顧客目線での取引がしにくい構造はよくわかります。
そして、不動産取引の仕組みとしまして、
着金確認→登記申請という段取りで、
先にお金が動きます。
着金確認までは、関係者は銀行等その場にいて、
お金の支払いが完了した時点で「ありがとうございました」と解散する慣習があります。
お金が動いたことは確認するのですが、
登記がちゃんと完了することの確認は二の次な慣習があります。
このシステムが解消されない限り、地面師はいなくならないかと思います。
登記については司法書士先生の意見を取り入れ、改善していかなければならないと思います。


この記事の執筆者

このブログの担当者  

久賀田 康太


保有資格:宅地建物取引士

1985年生まれ。

大阪府守口市出身。

関西大学法学部法律学科卒業。

住友不動産販売株式会社にて

土地、中古戸建、新築戸建、

一棟収益物件、工場、田畑等の

売買仲介業務にて実務経験を積む。

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