ショッピングモールの「ゾンビ化」 アメリカ・欧米
ショッピングモールの「ゾンビ化」 アメリカ・欧米
関西圏でもどんどん増えている「ショッピングモール」ですが、
より早い時代からアメリカや欧米諸国においては建設されていました。
しかしながら、数年後には、
日本のショッピングモールも先進国の状況と似た現象になっていくのでしょう。
ショッピングモールのビジネスモデル
アメリカにおいては、第二次世界大戦後からどんどん増えていき、
その当時、全米では約2500か所あったショッピングモール。
その後現在での運営されているのは約700か所です。
1980年~2020年代の約40年で3割弱に減っているアメリカ。
日本においては以前は「ダイエー」がたくさんありましたが、
今ではほとんど見なくなってしまいました。
現在は「イオン」や「ららぽーと」がたくさんありますが、
またそのうちどんどん減っていくことになるのでしょうか。
やはり日本においても、地方の人口数は極端に減っている上、
都心部においても出生数が減っていますので、
大型のショッピングモールというものはそのうち減っていくのでしょう。
ショッピングモールが栄えた要因
アメリカでも欧米でも日本でも、
ショッピングモールをどんどん建設していくことになる流れは似たような要因があります。
人口増加
自動車の普及
郊外型住宅の建設
都心部の無秩序な街形成
駐車場の不足
といった要因。また、
世帯所得の中間層の割合の増加により、
高級でない商品を販売する店の、多数の出店により、
中間層の顧客をどんどん獲得していきました。
結果、どこのショッピングモールも、
ある程度ニーズのある中産階級向けの店が入居し、
出店する店はどこのショッピングモールも似たり寄ったりになります。
また、子供が小さい家族にとっては、
休みを一日つぶせる
子供が喜ぶ
広い
という要因で買い物をほとんどしない人でも時間をつぶせる空間となっています。
今ではネットで買い物できますが、一定数実際見てみたい人がいるもの事実です。
ショッピングモールが衰退した3つの要因
日本に住んでいることで、海外のショッピングモール、とりわけ欧米のショッピングモールは、
大変悲惨な状況になっていることを知りません。
ある程度運営が成り立っているモールの方が少ないという話も聞きます。
アメリカには700程のショッピングモールがありますが、
その50%ほどが、JCペニーやシアーズといった、
昔ながらの百貨店を中核テナントにしています。
さらに、60%以上が「ヴィクトリアズシークレット」のような
アメリカの「中堅ブランド」を客寄せに使っていますが、
こうしたブランドは、パンデミックで特に壊滅的な影響を受け、
来店客が集まらず、かなり厳しい状況にあります。
もっとも、ショッピングモールの衰退は、アメリカに限った話ではありません。
2018年後半、BBCは「イギリス国内にある200以上のショッピングモールが危機的状況にある」と報道しました。
報道によれば、業績不振のショッピングモールの多くは、
アメリカの未公開株式投資会社が所有しているとのこと。
カナダなどほかの地域でも、キャディラックフェアビューなど有力ショッピングモール運営会社は、
営業時間を最大30%も短縮するなど、惨事を食い止めようとしています。
しかし、これほど多くのショッピングモールがバタバタと倒れている理由を求めて、
あれこれデータを分析しても、真実は浮かび上がってきません。
ショッピングモールは、私たちが知っているように、
日本でいう高度経済成長の工業化時代のビジネスモデルであり、
それに対するニーズがない世の中になれば、朽ち果てていくしかありません。
現代のショッピングモール業界は、そもそも揺籃期から、
次の3つの基本条件を土台に発展してきたからだと言われています。
アクセス性
1970年代後期から1980年代初めにかけて
当時、ショッピングモールは、言ってみればアナログ版のインターネットのような存在でした。
フェイスブックのように、友達や家族が集う場。
出会い系サービスのティンダーのような側面もありました。
ネットフリックス的な役割もありました。
地元の映画館が入っていて、
町で唯一の映画館ということも多かった。
フードコートで各自が好みのメニューを選べるという意味では、
ウーバーイーツ的な面もありました。
ショッピングモールは、チケット販売も担っていました。
今は、世界最大のチケット販売会社「チケットマスター」(Ticketmaster)のようなサービスがネットにありますが、
当時、ライブイベントのチケットが買えたのは、
地元で唯一ショッピングモールだけということも珍しくありませんでした。
しかも、何時間も並ぶ覚悟も必要でした。そして、ショッピングモールはアマゾンでもありました。
当時としては多種多様なジャンル、ブランド、商品が並ぶなかで、
ほとんどのショッピングを済ませることができました。
今でこそ、ショッピングモールといえばアパレルブランドだらけですが、
当時の地方のショッピングモールでは、
サンダルでも、スノータイヤでも、芝刈り機でも、口紅でも、あらゆるものが揃っていました。
体調が悪ければ、買い物がてらクリニックに立ち寄ることもできました。
地元のショッピングモールは、中産階級の人々の生活の中心であり、
商業活動の基盤であり、中流家庭の子供たちや家族の遊び場でもありました。
現在の日本がちょうどそのような状況です。
ショッピングモールは、ブランド、商品、交友関係、娯楽などにアクセスする場であり、
場合によっては唯一のアクセス手段でした。
ところが、ポストデジタル時代には、
ショッピングモールは、こうした機能を担えなくなっていきました。
かつて私たちは、電卓や目覚ましなど用途に応じて40種類くらいの電子機器を使い分けて暮らしていましたが、
スマートフォンの登場ですべてが淘汰されました。
同じように、かつてショッピングモールが担っていた役割が、
ほぼすべてインターネットに取って代わられています。
実際、世界最大のショッピングモールが、手のひらに難なく収まってしまうのです。
しかも製品・サービスの品揃えで比べたら、普通のショッピングモールは、
庭先のガレージセールかと思うほど見劣りする状況です。
さらに、小売業界が衣料・靴などのバーチャル試着などの便利な技術を投入し、
オンラインでますます安心して衣料品が買えるようになれば、
ショッピングモールにとっては致命的なテナント流出という悪夢に襲われることになります。
経済性
北米のショッピングモールの成長の原動力となったのが、第2次大戦後に爆発的に増加した中産階級だ。
現在、アメリカにおいて中産階級の消費者は絶滅危惧種かと思うほどに減少してしまいましたが、
消費者の大多数が、中産階級にうまく収まる時代が確かにありました。
大戦後に発展した先進国世界では、
中産階級は、政府が超党派で情熱を持って進めたプロジェクトが生み出したもので、
復員軍人に教育や住宅購入資金の貸し付け、
労働組合による保護といった便宜を図る目的があったようです。
1980年代初期以降、多くの国々で中産階級が消えつつあります。
しかし日本はほとんどが中産階級ですので、まだ先進国の様相とは違う気がします。
1980年代後期から1990年代にかけて、共働き世帯が増えたにもかかわらず、
平均世帯の暮らし向きが良くなることはありませんでした。
進行するインフレについていくのがやっとだったからです。
ロボットやコンピュータなど革新的な新技術が導入されたことに加え、
労働組合の力が低下し、賃金は頭打ち、仕事が海外に流出した結果は、主に2つあります。
まず1つめの結果は、企業にとっては、過去最高の利益と株価が達成されたことです。
2つめは、アメリカでも他の国々でも、中産階級の労働者にとっては、
不安になるほど賃金が伸び悩んでいることです。
端的に言えば、1978年から今日までに、アメリカの労働者の賃金は12%増加しました。
日本の労働者は約30年間、賃金は増加していないと言われています。
経営者クラスになると、もっと伸びています。
普通の労働者が1割強しか増えていないのに対して、
経営者は10倍弱が上乗せされました。
アメリカの非営利のシンクタンクである経済政策研究所によれば、
経営者クラスの報酬は1978年当時を100とすると、現在は1028と、爆発的に増加しています。
実に10倍以上。
その間にも、住宅、医療、教育などにかかる費用は、どんどん上がっています。
たとえば、1979年から2005年までの期間を見ると、
住宅ローンの返済は76%増、
健康保険料は74%増、
自動車購入費用は52%増(アメリカの場合、一家で2台必要な家庭が多い)、
保育園費用は100%増、共稼ぎ世帯の税率は実に25%も上昇しています。
持てる者と持たざる者の格差は広がる一方です。
そして、日本においてもこの傾向が進むように思います。
現在、アメリカの株式の80%以上が、社会全体の10%しかいない富裕層の手にあると言われています。
2018年のアマゾン従業員の賃金の中央値は、3万5000ドル(520万円ぐらい?)でした。
一方、2020年1月30日のたった1日だけで、同社の株価が上昇した結果、
アマゾンの前CEO、ジェフ・ベゾスに130億ドルが転がり込んだ計算になります。
2020年には、アメリカの貯蓄率は50年ぶりの高水準に達しています。
貯蓄が増えたと言っても、富裕層以外の90%に相当する私たちにとって、
総所得の1%をわずかに上回る額が増えただけのことです。
こうなる前は、貯蓄率がゼロを下回る時期が長く続いていました。
だが、上位10%の富裕層では貯蓄率は10%を超えていて、
上位1%ともなると、その数値は40%に跳ね上がります。
たとえば、アメリカで最後に最低賃金の引き上げがあったのは2009年のこと。
世界金融危機の真っ只中の措置で、ちょうど連邦最低賃金が時給7・25ドル(1100円ぐらい?)でした。
それ以降、アメリカの生活費は平均で20%上昇している。住宅や教育など一部の費用は、もっと上昇しています。
パンデミックで所得格差は、さらに拡大すると言われています。
その末に、「高級ショッピングモールか、アウトレットモールか」という二極化が進みつつあり、
中産階級の消費者を想定して誕生したショッピングモールだが、
その中産階級の消費者自体が消えつつあります。
③郊外化
欧米の百貨店の成長は、戦後の郊外流出の動きと符合しています。
さらに、格安の土地が豊富にあり、まじめなショッピングモール労働者を大量に確保でき、
さらに自家用車を持っていて可処分所得に余裕のある中産階級の人口が多かったことも影響しています。
1950年代から1990年代までは、ショッピングモールを次々に造っても需要に追いつかないほどでした。
潮目が変わったのは2000年代に入ってからです。
雇用、富、所得の都心回帰が始まると、一部の郊外型ショッピングモールは、
巨額を投じて高級モールへの模様替えと路線転換に動いたものの、
ほとんどは何も手を打てないまま、業績回復に転じることはありませんでした。
2007年に入ってから、アメリカでは、エンクローズドモール(巨大な建物内に全テナントが入る屋内型ショッピングモール)の新規建設が途絶え、
ごく最近になってニューヨークシティの「ハドソンヤーズ」や
ニュージャージー州イーストラザフォードの「アメリカンドリーム」といったメガモールが誕生したくらいです。
現在、パンデミックの影響もあり、こうした久々の新規オープン組でさえ先行きは不透明の状況です。
欧米列強においては、すでに大型ショッピングモールは衰退に向かっています。
時代とともに、消費者のニーズも刻一刻と変化します。
日本のたくさんできているショッピングセンターは、
今後どうなっていくのでしょうか?